
織部ヒルズの住人たち – 遊陶ピア/株式会社一久
「つちもの」が教えてくれる、やきものの温かさ
この地を訪れると、つい何度も足を運びたくなる、不思議な魅力を持つお店たち。そのひとつが、株式会社一久の運営する「遊陶ピア(ゆうとぴあ)」で、つちものを中心としたうつわを取り扱っています。
つちものとは、粘土を素材とするやきもので、一般的には陶器と呼ばれます。
株式会社一久は、1959年に陶磁器・漆器・和雑貨を扱う問屋商社として創業。現在は、小売卸業を中心に幅広い層に向けて多様な器を届けています。
そんな一久の中心にいるのが、代表取締役の籠橋竜太社長です。初対面では、一見静かな印象を受けるかもしれません。けれど、やきものの話題になると、その表情が一気にやわらかくなり、あふれ出すように話してくれます。
誠実であたたかいお人柄。取材中の余談でテレビの話題があがり、「断然地上波!」と意外なコメントをお聞きし、うつわ以外のお話も思わずしたくなってしまった籠橋社長に、お話を伺いました。

幼い頃から自然と身近にあった「つちもの」
「なぜか分からないんですが、つちものに魅かれるんです」
釉薬などで美しく仕上げられた磁器や、完璧に整った造形美には、なぜか心が動かない。備前、信楽、萩、常滑、萬古……。土のぬくもりが伝わる“つちもの”を、直感的に「好きだな」と感じるのだといいます。
「肌感」という言葉を使って、やきものとの向き合い方を表現される籠橋社長。表面の質感、重み、手のひらにすっと馴染む感覚。幼少期から陶磁器に囲まれて育ったことが、“自分の好み”を自然に育み、理屈ではなく、身体に自然としみ込んでいるのかもしれません。
駄知の陶祖・籠橋休兵衛の血を受け継いで
株式会社一久のルーツはさらに深くまでさかのぼります。籠橋社長の家系は、かつて材木商を営んでいたものの、祖父の代に陶磁器業界へと転業。
その原点にあたるのが、籠橋休兵衛という人物です。休兵衛は、岐阜県駄知村で製陶業と陶磁器仲買業を始めたとされ、“駄知の陶祖”と呼ばれる存在です。
つまり一久には、時代と共に陶磁器と向き合い、商いとして支えてきた歴史とDNAが刻まれています。そうした家業を「自然な流れで」継いだという籠橋社長の言葉も、そのルーツを考えると不思議ではないと感じます。
海外経験から培われた視野と感性
大学卒業後、籠橋社長は約1年間アメリカで生活を送りました。家業や肩書から離れ、「何者でもない」状態を経験したことが、のちの自身に大きな影響を与えたと語ります。
帰国後は東京の陶磁器業界で4年間の修行を経て、地元に戻り、すぐに経済発展が著しかった中国・上海へ。2002年当時の上海は、日本経済を凌ぐ勢いで成長しており、わずか半年の滞在でも、そのスピード感とエネルギーは強烈な印象として残りました。
そんな異国の地で得た価値観、人々の多様性、ダイナミックな市場。それらの経験が、今の籠橋社長の広い視野と柔軟な感性の源になっているのかもしれません。
圧巻!ヒルズ随一を誇るカップの品ぞろえ
「遊陶ピア」の2階ショールームは、陶器市ではぜひ訪れてほしいスポットです。ずらりと並ぶ商品の中で、特に目を引くのはカップ類の品揃え。陶器製のマグカップは圧巻の数で、織部ヒルズ随一の充実ぶりを誇ります。
飲食店を営んでいる方にとっては、唯一無二の魅力的な業務用の器に、家庭用の器を探している方にとっては、「なにこれ、面白い!」と声を上げたくなるようなアイテムに出会えるはずです。
現会長が買い付けたレアな掘り出し物から、作家作品まで、バリエーション豊か。店内のほとんどが陶器、しかも業務用というよりむしろ一般の家庭向けの器が多い、というのも一久ならではです。磁器も取り扱っていますが、主役はあくまで“つちもの”です。
「つちものが好きな人は、面白いものに出会えると思う」そう話す籠橋社長。つちに囲まれる穏やかで静かな空間と、それらが織りなす世界観をぜひ体感してください。

“好き”を受け止めて、ぴったりの器を提案してくれる
籠橋社長の魅力のひとつは、「その人の“好き”を肯定してくれる」こと。「これが好き」と伝えると、その想いを受け止め、そこから話が弾んでいきます。「だったらこういうのも好きかもしれんね。こういうのも面白いよ」と、さりげなく好みの器を提案してくれます。
“押しつけるのではなく寄り添う”。話していると、安心感に包まれながらうつわと向き合うことができます。やきものに詳しくなくても大丈夫。会話の中からきっと「これだ」と思える一枚と出会えるはずです。

「やきものって、面白いな」その原点がここに
器の手に持ったときの感触。土の肌合いと、炎が描いた模様。株式会社一久の器たちは、使い手の五感をやさしく刺激してくれます。
そしてなにより、器を見つめる籠橋社長のまなざしが、その魅力を何よりも雄弁に語ってくれるのです。この秋、株式会社一久の店舗を訪れてみてください。
派手な言葉では語られないけれど、器を見て、触れて、社長の話を聞けば、きっと気づくはず。
——ああ、やきものって、面白い。
そんな原点に、ふと立ち返らせてくれるお店です。
遊陶ピア/株式会社一久
所在地:岐阜県土岐市泉北山町3-11
アクセス:道の駅「志野・織部」より徒歩約2分
株式会社一久:https://www.ichikyu19.co.jp/
遊陶ピア:https://www.u-topia19.com
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