
織部ヒルズの住人たち – 喜楽庵・姿月窯/金正陶器株式会社
「器を買う場所」から「器に出会う場所」へ
織部ヒルズに入った一本目を左折すると見えてくる「姿月窯」の看板と、紫の「喜楽庵」のタペストリー。それらを運営しているのが金正陶器株式会社です。
和洋中ある業務用の食器は、料理や用途によって形が細かく分かれています。たとえば、小鉢や湯呑み、皿といったように、得意とする形がメーカーごとに異なります。
金正陶器株式会社では、美濃にあるその7~8割近くのメーカーの商品を取り扱っており、品ぞろえは織部ヒルズ随一と言っても過言ではありません。
業務用の器から、家庭で楽しむカジュアルなうつわ、さらには作家ものまで。圧巻の品ぞろえを誇るこのお店を率いるのが、五代目・澤田敦史社長。
静かな情熱と人柄にふれながら、陶器市で訪れるべき“とっておきの場所”をご紹介します。

“個の美しさ”を提案できる店でありたい
商品選びには社長をはじめスタッフも携わるため、多彩なラインナップが店内に並びます。老若男女問わず楽しめる商品が豊富にあることは、このお店の魅力のひとつです。
「自分が“好き”と感じるものを信じて仕入れる」と言う澤田社長自身が、商品選びでこだわっているのが、器の「形」と「釉薬の表情」。
かつて大量生産が主流だった美濃焼では、1個目と100個目が同じように仕上がることが求められてきました。
けれども今、長年やきものを見てきた澤田社長が魅力を感じるのは、焼成の加減や釉薬のかかり方で一つひとつ異なる表情を見せる器たち。「個体が持つ美しさ」です。
静かな凛とした佇まいの形、変化する釉薬から生まれた色。窯の中で、刻々と変化するその姿に、美しさとエネルギーがある。
「違っていても、そこにしかない味がある。やきものは生き物のように変化して、それが面白い」と、やわらかい表情で語ってくれました。
いろいろな難しさはありますが、バラつきは好ましくないとされている工業製品の個々にも美しさがある、それを可能な範囲で提案していければいいと考えています。
店内にはもちろん、社長自身が選んだ個の美しさを持つ器も販売しています。
同じ形状でありながら、釉薬のかかり方でまったく印象の異なる商品たち。
秋の陶器市はスタッフの方と会話ができることも楽しみのひとつですので、店頭でこっそり聞いてみてはいかがでしょうか。

姿月窯と喜楽庵、二つの空間で出会う器たち
「姿月窯」には日常使いがしやすい器がところ狭しと並び、陶器市でもまさに“目移り必至”の店内。色やかたち、手触りの違いを比べながら選ぶ時間も楽しいひとときです。
「喜楽庵」には、作家作品や、澤田社長のお母さまが長年かけて集めてきたコレクターズピースまでずらり。
奥のショーケースには、美濃焼の名匠・荒川豊蔵氏をはじめとする、まさに美術館級の名品も展示されています。
普段使い探しはもちろんですが、「他とは違う、ちょっと特別な器を探したい」という方には、ぜひ足を運んでほしい空間です。
“見る” “知る” “つくる”を、次の100年へつなぐ
そして今年(2025年)、敷地内に新たな建物が完成します。木材とコンクリートを組み合わせたスタイリッシュな外観と、ガラス張りの前面。
土を練る、攪拌する、成形する、焼成する――そんな一連のやきものの工程が、外からすべて見えるように設計されており、やきものの成り立ちを舞台のように見ることができます。
この建物には、器づくりの現場をもっと身近に、そしてもっと多くの人に届けたいという、澤田社長の「つなぐ」という想いが込められています。
現在、窯業を担う人口減少は全国的に深刻さを増しています。土づくり、素地づくり、窯、絵付けと分業制を取ってきた美濃の地において、担い手不足による閉業が相次ぐと、生産自体ができなくなるという未来もあり得ます。
そのような状況で、自分たちができることはなにか。
それを考えたときに、この織部ヒルズ内を訪れる人たちに「やきもの」を知ってもらうきっかけとなる場所を提供し、少しでも興味を持ってもらい、担い手となる人が生まれてほしい。
“まずは知ってもらうこと”。新しい建物はその第一歩です。
次の世代につなぐことを考えると、誰かがやらなくては。その想いの種が、新しい場所として芽生え始めています。

器の背景にある「物語」に出会う場所
金正陶器株式会社は、器を売る場所ではなく、土と炎と人の手が織りなす、やきものという文化そのものを伝える場所になりつつある、と感じます。
器の奥にある物語に耳を傾けたくなったら、ぜひ金正陶器株式会社へ。
そこで出会う一つひとつの器、そして澤田社長との会話や新しい場所が、やきものの魅力をもっと深く、もっと身近にしてくれるはずです。
※新施設は2025年6月取材時点の情報です。
喜楽庵・姿月窯/金正陶器株式会社
住所:岐阜県土岐市泉北山町2-2(織部ヒルズ内)
Instagram:@shizukigama
公式HP:https://www.kaneshotoki.co.jp/
※陶器市期間中の詳細イベント情報は、織部ヒルズ公式Instagram・HPでも随時更新中!