株式会社 丸忠/potter-m

織部ヒルズの住人たち – potter-m/株式会社丸忠

発掘と出会いの楽しさを届ける やきもののワンダーランド

手仕事の温もりが宿る器から、日々の食卓を支える定番のうつわ、そして生活に彩りを添える植木鉢まで——。株式会社丸忠は、暮らしに息づく「やきもの」をあらゆる角度から提案してきた卸商社です。

1950年の創立以来、織部ヒルズの中で美濃焼の卸・小売を展開。
現在に至るまで織部ヒルズの変遷を見つめ、土岐美濃焼卸協同組合理事長も務めた、代表取締役の酒井宏尚さんにお話しをお伺いしました。

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美濃焼が生んだ中華食器の革新

過去の美濃焼のイメージは、大量に作って手ごろな価格でさばくことができるやきものでした。国内の日常使いの器生産の6割近くを担っていたため、品質を均一化し量産できる「分業制」が主流でした(分業制:やきものの各工程を専門の職人が行うことで、陶土作り、型作り、生地作り、焼成、絵付けなど、工程は多岐にわたるもの)。

その美濃で、戦後まもなく普及し始めた中華料理の人気に着目し、ラーメンどんぶりから八角皿、煎茶碗までをセットにした中華食器を手がけ始めたのが先代でした。
伝統的ながらの龍や鳳凰などのシリーズをはじめ、青磁でのラーメン鉢をどこよりも先んじて開発するなど、中華食器のパイオニアとして業界を牽引。

ラーメン鉢の代表的な色でもある赤色を手描きで蒔く職人、ダミ(輪郭線で囲まれた部分を、太筆で塗りつぶす技法)を手描きで描く職人などと共に、多くの製品を世に送り出してきました。


手描きと印刷「線一本の違いに宿る表情」を楽しむ

近年、職人の担い手不足や、それに伴う生産確保の難しさ、価格の上昇など、美濃焼を取り巻く状況も少しずつ変化しています。
機械の技術は目覚ましく進歩しているものの、人の手による技術が廃れていくことを憂い、「人の手の味わい」に光を当て続ける酒井社長。

現在の流行やニーズに焦点を当てた商品ではなく、丸忠ならではの“味”のある、付加価値型の商品展開を行っています。

同じ形状でも手描き、印刷という様々な方法で作られたものがある。それを技術的、価格などの基準だけで選ぶのではなく、手描きと印刷では表情が異なることを知り、自分はどんなものが好きなのか、違いを感じながら探してもらえるとうれしいといいます。

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陶器市は「感性の筋トレ」ができる場所

「商品の良しあしを決めるのは、素材や作り方や価格などの理屈じゃない」という酒井社長。
お茶碗ひとつをとっても、2000円と1万円の違い、1万円と5万円の違いの価値をどこで見出していくのか。価値や価格の定義はあいまいで、人それぞれです。

だからこそ、できるだけ多くの器に触れて、自分の感性を磨くことが大切だといいます。
枚数を見ることよって育まれる、いい器の価値観が「自分だけの審美眼」へとなっていく。

ジャンルを超えた器が一同に会した陶器市では、時間が許す限りエリア内の店舗を周遊してもらえればと願っています。


「作り手不明」「廃盤商品」が語る価値の深みも発掘

和洋中の食器が並ぶ丸忠ですが、その中でも楽しんでほしいのは、過去のデザインや製品の発掘です。
現在は、器の裏に生産者印が刻印されることがスタンダードになっていますが、過去の製品には何も刻印されていないものも存在します。

それは、高い技術を持ちながらも作り手が表に出なかったり、大量生産品に対しては少しでも安価に提供するために省略をする、という特徴もあったためです。
そういった背景から、作り手不明となっている製品の中には、現在は職人不在のため再現不可の器、というものがあります。

たとえば、竜と対の雲のように丸みを帯びた形状で、伝統的な美しさを持つデザイン「木甲(もっこう)」と呼ばれる器や、手描き職人が絵付けたラーメン鉢など、今となっては超レアになった器が丸忠ではまだ存在するので、「工業製品のイッピン」に出会える可能性が楽しみのひとつです。


「発掘」のパートナーは社長自身

こうした過去のイッピンを見つけ出すコツは、酒井社長との器談義にあります。
一見寡黙な印象の社長ですが、器の歴史や製法に話が及ぶと、その知識の引き出しが次々と開いていきます。

気楽に話しをしに来てください、と笑顔でいう酒井社長。
そのお言葉に甘えて、ちょっと面白いものに出会いたいと思う方は、器探しと酒井社長をセットにしての丸忠訪問をおすすめします。店内後ろから年代物の掘り出し商品が出てくる可能性が大です。

自分では見落としてしまうことも、話をすることで見えてくる。そんなやりとりが楽しめるのも、陶器市ならではの魅力です。

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また陶器市では、酒井社長の奥様洋子さんによる、絵付け体験ワークショップも開催予定です。
家業が洋食器輸出会社だったという洋子さんは、会社を共に切り盛りする傍らで趣味の絵画や絵付けをされるという多彩な才能が。
店内で、洋子さん作の絵画や絵付け作品を目にすることができ、酒井社長以上にフレンドリーなお人柄で、ワークショップも毎回盛況のため、早めの予約をおすすめします。


会いに行きたくなる「器の語り部」

美濃焼や織部ヒルズの変遷を語るうえで、酒井社長の存在は欠かせない、と感じた今回の取材。
時代の流れを知り、技術と美意識の変化を語り、次代へと繋げていくその姿は、「器の語り部」という言葉がしっくりきました。

探す楽しさ、知るよろこび、人と話す面白さ——器が好きな方も、これから好きになりたい方、器に興味がなくてもラーメン好きの方、丸忠でのひとときをぜひ味わってみてください。


potter-m/株式会社丸忠(まるちゅう)

住所:岐阜県土岐市泉北山町3丁目1(織部ヒルズ内)

Instagram:@maruchu_potter

公式HP:maruchu-potter.jimdofree.com

※陶器市期間中の詳細イベント情報は、織部ヒルズ公式Instagram・HPでも随時更新中!